管理人 : 松浦明宏 | |||
前回は、私にとっての哲学の始まりについて述べ、医療従事者の方々がなぜ哲学することを学ばなければならないのかを説明しました。 今回は、「哲学」という言葉の語源を見ることにします。なぜ「哲学」の語源が重要なのかといえば、それを見ることによって、哲学がどんな活動なのかを概括的に知ることができるからです。 「哲学」という日本語は、 幕末から明治にかけて活躍した思想家西周(にし・あまね (1829-1897))が、 欧米のPhilosophie(独)、philosophy(英)、philosophie(仏)といった言葉の訳語として 作った言葉で、最初は「希哲学(希賢学)」と言われていました。 「賢きことを希(こいねが)う」というほどの意味です。 西周は「オランダ留学中か、その直後の作とみられる『開題門』」の中で、 「斐鹵蘇比(ヒロソヒ)」と書いていますので、英語を念頭に置いて訳したのでしょう。 (小泉仰『西周と欧米思想との出会い』三嶺書房、46頁) そして、上記の欧米語はラテン語のphilosophiaに由来し、 このラテン語は古代ギリシア語のfilosfiva(フィロソフィアー)に由来します。 つまり、哲学⇒希哲学(希賢学)⇒Philosophie⇒philosophia⇒filosofiva というわけですね。 (ブラウザの画面上では、iv とa との間に隙間があいているかもしれませんが、 それはテクニカルな問題であり、原語にはそのような隙間はありません。念のため。) したがって、「哲学」という言葉が、あるいは、 「哲学」と言われる活動が、もともと何を意味していたかを知りたければ、 古代ギリシア語のfilosofivaの意味を知ればいいということになります。 ではこのギリシア語はどういう意味なのかといえば、だいたい次のような意味です。つまり、filo-(フィロ-)という部分(より厳密にはfil-(フィル-)という部分)は、 「好む」「愛求する」というほどの意味であり、 sofiva(ソフィアー)という部分は「知」とか「知恵」を意味します。 従って、filosofivaは「知を愛求すること」という意味であり、 これが「愛知」とか「愛知の精神」と言われることもあります。 ただし、重要なのは、ここでいう「ソフィアー」がどういう意味の「知」なのか、ということです。 あるいは、何を対象とする知なのかという、「知の対象」の問題であると言い換えてもいい。 たとえば、自然についての知という意味であれば、 いわゆる自然科学的な知識、物理学的な知識の探求が哲学であるということになるでしょうし、 言葉についての知という意味であれば 言語学的な知識の探求が哲学であるということになるでしょう。 また、人倫についての知という意味であれば、 倫理学的な知識の探求が哲学であるということになるでしょう。 実際、これは後に見ることですが、 アリストテレスによって哲学の創始者とされているタレスという人は 「万物の原理は水である」という仕方で、或る意味で自然科学的な知を探求した人ですし、 ソクラテスは、そうした自然探求の場面から人倫の場面へと哲学を移した人と言われます。 現代においても、いろいろな人がいろいろな立場から「哲学」を語っているわけですが、 これなどは、私に言わせれば、 もともと「哲学」(フィロソフィアー)という言葉が そのようにいろいろな知の探求活動たり得る意味内容をもっていたことに由来する、 ということになるわけです。 もっとも、同じ事柄についてのさまざまな考え方の違いによっても、 さまざまな「哲学」は生じるわけですが。 まとめれば、 1.哲学⇒希哲学(希賢学)⇒Philosophie⇒philosophia⇒filosofiva 2.「filosofiva」=「知の愛求」 3.「哲学」がどのような種類の知の愛求かは、 「知」をどのように解釈するかによる。あるいは、もっと正確に言えば、 どのような「知」をその人が最も重要と考えているかによる。 ということになるでしょう。 私の場合には、自分自身の存在理由の探求、 自己知をもっとも重要と考えるということになるでしょう。 自分は何のために生きているのか、どのように生きていくのが私にとって最も善いのか、 こうした自己探求こそが私にとって重要な問題であるということです。 だから、私は、デルフォイ神殿の「汝自身を知れ」という言葉を、 人間が考察するに値する唯一の問題、 「人はいかに生きるべきか」という問題として捉えたソクラテスの思想に もっとも親近感を覚えるわけですが、 ソクラテスの思想についてはもっと後で述べることにして、 次回は、まず古代から現代までの哲学史の骨格を捉えておくことにしましょう。 そうすることで、より具体的に哲学の特徴が明らかになると思います。
by matsuura2005
| 2004-02-02 16:20
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