管理人 : 松浦明宏
論文構想『テアイテトス』第二部メモ(3)
『テアイテトス』第一部については、「試し」解釈(プラトンが対話篇を書く一つの大きな目的が読者を試すことにあるという解釈)の一つの例と見る典拠を自分なりに見つけて論文にしました。『テアイテトス』第二部についても、私は、対話篇読者に対する「試し」解釈として見る方向で考えていて、既に、何度か、HPの方にもアイデアだけは書いておいたのですが、試し解釈に直結するような典拠は書いていませんでした。
そこで今回は、その典拠らしき箇所を提示することにします。まだ、論文の全体像は出来上がっておらず、今回の内容もまた、その一つのパーツにすぎません。しかし、こうしたパーツを組み立てていって、そのうち論文にすることができればと思っています。

前置きはこのくらいにして、本論にはいります。前回、『テアイテトス』第二部についてこのHPに書いた時、5+7=12の等号は、厳密な意味での同一性を表すものではなく、結合記号にすぎないということを述べ、何かぼんやりとしかわかっていないもの(5+7)を、はっきりとわかっているもの(12)と結合することである、という解釈を、『ソフィステース』のディアレクティケーとの関連で述べました。このことについて興味深いのは、テキスト196b-c2にかけて次の問答が行われていることです。

ソクラテスは、誰かが心の中にある蜜蝋に刻印された5と7について、それらが合計でいくつになるかと問えば、計算間違いをして11と答える人もいるし、正しく12と答える人もいるのか、それとも皆が12と答えるのかと尋ねます。テアイテトスは皆が12と答えるとは限らないし、もっと大きな数なら間違える人ももっと多くなるでしょうと述べた後、ソクラテスとテアイテトスとの間で次のやりとりが行われます。

「ソクラテス:確かに君の思っている通りだ。そこで、君によく考えてもらいたいのだが、その時には、蜜蝋の中の12そのものを11と思うこと以外の何も起こってはいないのだね?

テアイテトス:どうも起こってはいないようです。

ソクラテス:そうなると、再び最初の議論に戻るのではないか? なぜなら、その状態にある人は、自分が知っているものを、これもまた自分が知っているもののうちの別のものであると思うわけだが、それは不可能だとわれわれは言っていたからだ。そしてまた、同じ人が同じことを知っていて同時にまた知らないということを強いられないためという、まさにこの点で、われわれは虚偽の思いなしなどないとせざるを得なかったからだ。」(196b4-c2)

この問答について私が言いたいのは、「5+7を11と思うこと」と「12を11と思うこと」とは別のことであるはずなのに、それを同一視してかまわないのかという趣旨のソクラテスの質問に対して、テアイテトスが同一視して構わないという趣旨の答えをしたことによって、議論はアポリアに陥る以上、上記のソクラテスの要求・命令「君によく考えてもらいたい(196b4 enthymou)」は、読者であるわれわれに対して、著者プラトンが、それらは同じことなのかよく考えてみなさい、と要求していることになるのではないか、ということです。

「5+7を11と思うこと」と「12を11と思うこと」とが別のことであるというのは、つまり、「5+7を11と思うこと」は、「5+7」という「はっきりしないもの」を、「11」という「はっきりしたもの」と結びつけることであるのに対して、「12を11と思うこと」というのは、「12」という「はっきりしたもの」を「11」という「はっきりしたもの」と結びつけることであり、この点で両者は違っているということです。そして、何かぼんやりとしかわからないものを、既によく知っているものと結びつけるときには間違いが生じ得ますが、既によく知っているものを既によく知っている別のものと結びつける人はいないので、この場合には虚偽は生じないということになります。

このように、ソクラテスが「5と7」(195e9-196a1 pente kai hepta)と「12」(196b5 auta ta dodeka)とを区別せずに質問していることにテアイテトスが不注意だったことが、アポリアが生じる原因であると考えられる以上、ここで著者プラトンが読者に気づいてもらいたがっているのは、これら両者の違い、つまり、「ぼんやりとしかわかっていないもの」と「はっきりとわかっているもの」との違いであったということになるのでしょう。私見によれば、これらは、『ソフィステース』に見られるディアレクティケーのプロセスや、『ピレボス』に見られる無限定と限定ということと密接なつながりを持っているように思えるのですが、この点については、別の機会に述べることにします。
by matsuura2005 | 2005-06-22 03:55
研究ノート「納富信留著『ソフィ... >>
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